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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)4073号 判決 1980年3月10日

原告

荒川信用金庫

右代表者

加納菊男

右訴訟代理人

吉原歓吉

被告

久保田あい子

久保田正由

主文

一  被告久保田正由は原告に対し、金一七五万四八七四円及びこれに対する昭和五四年四月二六日から完済に至るまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。

二  原告の被告久保田あい子に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告久保田正由に生じた費用を被告久保田正由の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告久保田あい子に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一被告あい子に対する請求につい

1、2<省略>

3  同1(二)(2)(イ)について

被告正由と同あい子が本件契約当時夫婦であつたことは前記1のとおりであり、また<証拠>によると、被告正由、同あい子夫婦間には独身の娘である長女可南子(当時二二歳)がいたことから、同正由は原告から本件金員を借り受けるにあたつて、その使途につき同女の結婚費用に使用するとの名目を用いたこと、しかし右金員の借入れは実際には被告正由の経営する有限会社創作美術の営業資金に充てるためなされたものであり、事実そのように費消されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで原告は、右のとおり被告正由が被告あい子の代理人として娘の結婚費用の名目で本件金員を借り受けたことから、右借入れ行為が被告ら夫婦の日常の家事に関する法律行為であると信じ、かつそう信じるにつき正当の理由があると主張するので考えるに、民法七六一条にいう「日常の家事」とは、未成熟の子の教育、養育等を含む夫婦の共同生活に通常必要な事項をいうものと解されるから、既に成熟した娘の結婚費用として、しかも二五〇万円もの多額の金員を借り受ける行為のごときはここにいう「日常の家事」の範囲には含まれないものと解するのが相当である。

してみると、原告の右主張は、娘の結婚費用にあてるため右金員を借受けることが被告ら夫婦の日常の家事に関する行為に該当するということを前提とするものであるから、その余について判断するまでもなく理由がない。

二被告正由に対する請求について

<省略>

三結論

以上の事実によれば、原告の被告あい子に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却し、被告正由に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行宣言について同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(山口和男 持本健司 山田知司)

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